IE9ピン留め

静暮の雑記帳です。
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上田現さんのこと。

訃報を聞いて、しばらくはなんのことか理解できませんでした。
そして次に、「悔しい」と思いました。

病気だから仕方ないとか、思えません。
とにかく悔しい。
それだけです。

とても周囲に気を遣う人だったのではないかと思います。
そのために心を痛めることも多かったのではないかと思います。
そういうバックグラウンドがありながら、枝葉を広げる気持ちを忘れない人だったんじゃないかなって、思います。


昨年末にレピッシュ20周年のライブがあり、上田現さんが「脱退したのにすみません!」と言いながら、楽しそうに出演されていたと友人からの報告で聞き、嬉しく思っていました。

上田さんのいちファンとして、いまはそれをとてもありがたいことだと思います。


実は十年程前、仲間で作っていたミニコミ誌『サアカス』で、一度だけインタビューさせていただいたことがあります。
レピッシュ結成して12年、と、その時の記事には書いてあります。

取材させていただいた我々は弱小2号目で、大御所を前にド緊張だったわけですが、小娘の体当たりインタビューに、気取ることなく偉ぶることなく、かつて夢中で読んだ彼らのメジャー雑誌インタビューさながらの空気で楽しませて下さったフルメンバーでした。

レピッシュ最大の武器は、なんといっても「スカ」。
でも、その頃はミクスチャー系と呼ばれる音楽が華々しく展開されていて、彼らに続く世代のミュージシャン達が、かっこいいと思うものはどんどん取り入れる傾向にありました。
もちろんスカもその『かっこいいもの』であり、レピッシュに影響を受けたミュージシャンたちのイベントに呼ばれてトリを飾ったりしていた頃です。

「(イベントに招かれて)面白いことは、うちのファンじゃない人が見てくれること、腹が立つことは、うちのファンじゃない人が(音も聴かずに)帰ること」
と、いうようなことをヴォーカルのマグミさんがおっしゃって。

ふざけてばかりのインタビューの中に、ちらりと本音を見せて、またすぐにふざけた顔に戻る彼ら。
自身の音楽を貫きながら、新しい土壌をいかに切り拓いていくか。そういう時期だったからこそ、我々弱小ミニコミにも答えてくれているのだと考えた私は言いました。
「そこでアピールを。音も聴かずに帰っちゃう子たちに」。

すると、上田現さんはこうおっしゃったのでした。

「聴くかもしれない子たちに、でしょう。うん。」
そして、そのあとすぐに
「帰っちゃう子たちには、やっぱり『気をつけて帰ってください』って。(笑)」


当時の上田さんは、ほぼ今の私と同じ年齢でした。

この年になると、いろんな限界が見えてくるような気がして、諦めることを正当化するようになります。
当時もこの言葉にはっとしたものの、今改めて読み返し、インタビューを思い出すと涙がとまりません。

上田さんがレピッシュを脱退され、『ワダツミの木』を生み出したのはこの後のことです。

レピッシュの頃から、ノスタルジックで不思議な歌詞や、上田さんにしか歌えないような幻惑的なメロディーは定評がありましたが、実はファンとしては、「マニアックすぎて一般受けはしないよなぁ」と思っていました。(ごめんなさい!)
でも、だからこそよくて、だからこそ好きで、「このよさがわかる自分が嬉しい」わけなのでした。

ところが、驚きの大ヒットだった『ワダツミの木』で、その才能が白日のもとに曝されてしまい…。
ちょっぴり残念、ちょっぴりおめでとう、そんな気持ちになりました。

友達とカラオケに行って、『ワダツミの木』を歌うと、誰かが言ったものです。
「これって『爆裂レインコート』だよね」

『爆裂レインコート』は、上田現 作詞 / 作曲の、レピッシュ初期の名曲です。
私たちは、愛情を持ってその言葉に爆笑したものでした。

誰にも真似できない、上田現の音楽を、貫いていることが嬉しかったから。

『ワダツミの木』は、あの言葉どおり「聴くかもしれない子」たちを、振り向かせた一曲だと思います。



優れた詩人でもありましたよね。

「傘を買って、広げたら、やんだ。
 ああ有意義な一日だね。」     (『爆裂レインコート』)
 


そんなことばっかりの人生。
だけど、そこに、寄り添ってくれる歌がある。
上田現さんのやさしさを、改めてかみしめています。

はじめてレピッシュに出会った18の頃。
あれから20年も経ってしまいましたよ。
たった一度だけでしたが、言葉を交わすことができたことは、私の人生のなかで、とびっきりの奇跡です。

その曲から、言葉から、擦り切れるまで見たばかみたいに楽しいビデオから、本当にたくさんのものをいただきました。
まだまだ「あたりまえ」のように、全然手の届かないところで私達を楽しませて欲しかったですよ。
なんだってこんなに早く。納得できません。

しかし、ここらで一区切りせねばならないのだとしたら、言わねばなりますまい。

上田現さん、心からありがとうございました。
ほんとうに、ほんとうに、ありがとうございました。


サアカス篇集室 吉野淡雪 拝

by ichigoshigure | 2008-03-11 10:46
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