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寫眞館ゼラチン×喫茶店バブーシュカ『Quiet』に寄せて喫茶店バブーシュカの壁一面を整然と埋めつくすモノクロの世界。 もはや壁自体が巨大な作品ともいえるような作品群です。 モノクロフィルムでの撮影ににこだわり、独自の制作過程によって世界に一つしかない作品を生み出す寫眞館ゼラチンさん。 今回は特に、ソラリゼーションという手法を取り入れたことにより、風合いによりあたたかみが増しています。いつもの「漆黒」に、ノスタルジックなセピアが余韻として残る感じとでもいいましょうか。 さらに、額装にもこだわりがあります。ガラスという障碍を排除して、額縁からじかにその一枚一枚が顔を覗かせているのです。 繊細な印画紙を、空気にさらすということ。それはゼラチンさんにとっても冒険だと思うのですが、今回そのようなかたちをとったことには理由があるようでした。 作品から少し遠ざかり、あたたかな木の椅子に座って、メニューを眺めます。いつも、その催しにテーマをあわせて楽しく飾られた美味しいケーキやドリンクを選ぶのも、バブーシュカの楽しみのひとつ。どれも美味しくて見た目も素敵なので、いつも迷ってしまいます。 この日はゼラチンスペシャルの「Qフロート」と「黒いチーズケーキ」を注文。 頬張りながらふと周囲を見渡せば、そこかしこに、さきほど心奪われた世界の中の住人が、あちらこちらで現実の色を持って息づいていることに気づきます。 そう。今回の作品には喫茶店バブーシュカの息吹が、ゼラチンの世界に写し取られているのです。 何度もこの会場で開催されてきた寫眞館ゼラチンの個展。しかしこの『Quiet』には、これまでとは一線を画す想いがそのまま試みとなって具現化されています。 ゼラチンさん曰く 「最近ね〝いつまでもあると思うな〟って思うんですよ」と。 「自分の大好きな場所がなくなると思って見ると、この電球も、この机も、この椅子も、もう会えないんだっていうふうな目線になる。全部生きてるものに感じるんです。」 と。 その言葉を聞いてからもう一度作品に向き合うと、濃淡によって浮き出された魂の、そのちいさなちいさな囁きが直接語りかけてくるようです。 ひときわ目を引く1枚は、ずらりとならんだぬいぐるみや人形たち。この大きな印画紙を現像したときのお話が、とても印象的でした。 ゼラチンさんは、その場の光を細工することはほとんどありません。この写真も、バブーシュカに差し込む光を活かして撮影されました。ですから撮影時、全ての人形に同じ光が当たることはありませんでした。 しかしゼラチンさんは、フィルムに焼き付けられた全ての人形のその表情をひとつ残さず印画紙の上に描き出すために、部分的に感光時間を変えながら、現像作業をされたそうです。 暗室でのその様子を、ゼラチンが、ジェスチャーを交えて話してくださいました。感光させたい部分を照らしながら、露光させたくない部分を腕で覆い隠す。大きな印画紙に身を乗り出して腕を伸ばすその様子は、まるで不思議な楽器の奏者か、はたまた、幼子を慈しみ護ろうとする母の手のように見えて、とても感動的でした。 そうして現像された作品は、もう二度と同じように作ることはできないのです。 「一点もの」と呼ぶその作品を、ガラスやアクリルで覆うことなく、外気にさらし、湿気やホコリが付着しないとも限らない環境に置くことは、不安ではないのでしょうか。 ゼラチンさんはこう語ります。 「バブーシュカの電球ってね、全部色や明るさが違うんですよ。普通のギャラリーって、作品を見せるために統一されてるでしょ? ここはそうではなくて、いろんな灯りがとても独特な、バブーシュカという空間を作り出してる。その中に作品を置くから、こういう雰囲気になるわけで、今回、寫眞館ゼラチンの個展ではあるけれど、バブーシュカ全体としての作品でありたいというか。その空気感にさらされた作品にも、その記憶を染み込ませられたらいいなあと思うんです。この個展が終わって、それぞれの作品を持ち帰ってくださる方々にも、この場所に飾られていたことも含めての存在として大切にしていただけたら嬉しいなって。」 2018年、この秋には惜しまれながら閉店することとなる喫茶店バブーシュカ。 この場所をこよなく愛する寫眞館ゼラチンさんの、深い想いが、ここには凝縮されているのです。 かくいう私にも、この『Quiet』には忘がたい思い出がたくさんあります。 この個展のために、音を制作させていただきました。 ゼラチンさんの作品が並ぶバブーシュカを想いながら作った音たちです。あの空間に漂う音が、空気とともに、作品に染み込んでいったのだと思うと、頭を垂れたい気持ちになります。 本当に光栄なご指名でした。 5月19日に開催されたアネモネの演奏会では、小さなコラボもしていただきました。 ゼラチンさんの2016年の回顧展『ROOM』に寄せて制作したサウンドトラックの中から、『象牙の古城』が新たに歌詞世界を得て『荒野の花』として生まれ変わり、バブーシュカで演奏されたのです。 私は残念ながらその場にはいられませんでしたが、黒のドレスコードで演出された演奏会は、想像しただけでもうっとりするようでした。 アネモネ×mi×バブーシュカ×ゼラチン。 そんな奇跡のコラボは、やはり想いのなせる技だと思います。 音を聞いたバニラ嬢が紡いでくれた歌詞を初めて読んだ時には深い感慨を覚え、個展初日に乙女椿の写真が飾られているのを目撃したときには鳥肌が立ちました。 というのも、バニラ嬢は、乙女椿の作品の存在を知らずに歌詞を書き、ゼラチン嬢は、その歌詞の存在を知らずに作品を制作して展示されていたからです。 どちらも知っていたのは私だけ。 後日談としてそのことを彼女たちに伝えるまで、逸る気持ちに黙っておくのが大変でした。 それから、会期中ずっと店内で流れているサウンドトラックを聞いてくださっていたゼラチンさんと、バブーシュカの名シェフ金田アツ子女史が、演奏会で歌詞付きの曲を初めて耳にして 「この曲知ってるのに知らない! あれ? 知ってるはずなのに歌えない!なんで?」 という不思議な体験をなさったと聞きました。 はからずも、そんな効果を生んでいたとは。 私もその体験、してみたかったなーと、羨ましく拝聴したお話でした。 ゼラチンさんと二人でいる時に偶然来店されたイタリアからのお客様のことも忘れられません。 「ここは魔法のような場所です」とおっしゃっていたその方は、ミラノの建築家さん。男女お二人の素敵な来訪者は、私たちに奇跡のような時間をくださいました。ゼラチンさんの来館者ノートにメッセージが残されていますので、是非是非ページをめくってみてください。 そして、フィルム撮影会にも立ち会わせていただきました。 ゼラチンさんの作品を愛するみなさまがそれぞれに思い描くゼラチン世界の中に刻まれる瞬間。 ご自分でコーディネートされる方、おまかせしますとおっしゃる方、それぞれでしたが、みなさま共通していたのは、ゼラチン世界の住人になることを、心から楽しまれていることでした。 バブーシュカの壁の前に立たれるおひとりおひとりの佇まいや表情、顔の角度や手の仕草などを的確にディレクションしていくゼラチンさん。服飾を手がけられるmiさんが、ちょっとしたスパイスを加えることで、あれよあれよという間にモデルさんをゼラチン世界の住人に仕立てあげてゆかれる様は、それはそれはもう、魔法使いのお仕事と呼ぶにふさわしいものでした。 シャッターを切るゼラチンさんとの、その三つ巴のコンビネーションが抜群で、まるで小さな空間で繰り広げられるお芝居を見ているかのような、そんなときめきがありました。 今ごろは、仕上がった作品がそれぞれの元に届いていることでしょう。 ファインダー越しに寫眞館ゼラチンさんが見る世界はゼラチンさんにしか作れない。 あの場にいた誰もが想像した世界を、さらに超える感動であろうなあと、思い描く私です。 そんな『Quiet』も、残すところあとわずかとなりました。 いま、ここにしかない。 二度と会えない。 だから、会えるうちに。 その場所を、ぎゅっと抱きしめに。 私も、最終日にもう一度足を運びたいと思っています。
by ichigoshigure
| 2018-05-25 22:43
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